この記事では、業界の内側にいた人間だからこそ知っている「M&A仲介会社の問題点」を包み隠さずお伝えします。
オーナーの皆様には、こうした実態を知ったうえでM&Aアドバイザーと向き合っていただきたいと思います。
はじめに:M&A仲介会社の数は5年で2.6倍に増加
中小企業のM&A市場は近年急速に拡大しています。後継者不在問題の深刻化を背景に、M&A仲介会社の数は2018年から2023年の5年間で約2.6倍に増加しました。
この急拡大には負の側面があります。
M&Aの専門知識が十分でない担当者が増え、業界全体のサービス品質にばらつきが生じています。
中小企業庁もこの問題を重視し、M&A支援機関の登録制度や中小M&Aガイドラインの整備を進めていますが、オーナーが知らないまま被害を受けているケースは後を絶ちません。
まさに、未成熟な業界ならではのM&A仲介会社の問題点といえます。
私はM&A業界に10年以上携わり、野村證券投資銀行部門・中小企業M&A仲介会社・独立と複数の立場からM&A業界を見てきました。
仲介会社の選び方の実践的なチェックポイントについては、
M&A仲介会社の選び方|着手金・手数料・担当者の質で比較する7つのポイント
で詳しく解説しています。
本記事では、そもそもなぜそのような確認が必要なのか、M&A仲介会社の構造的な問題点を深掘りします。
M&A仲介会社の問題点1|着手金+専任契約による「生殺し」ビジネスモデル
成約しなくても儲かる仕組みが存在する
M&A仲介会社の問題点の第一として、構造的に「成約しなくても収益が発生する」ビジネスモデルで運営している会社があることがあげられます。
着手金(数十万〜数百万円)を受け取り、専任契約(契約期間中は他社への相談不可)を締結する。
この組み合わせにより、仲介会社は成約しなくても着手金という収益を確保できます。
一方オーナーは、専任契約によって身動きが取れない状態に置かれます。
この構造が生む最大の問題は、仲介会社に「本気で動かなくても売上が上がってしまう」という点です。
着手金を受け取った時点で最低限の収益は確保されており、専任契約によりオーナーは他社に逃げられません。
「囲い込み」後に起きること
オーナーが専任契約を締結した後、以下のようなパターンが発生することがあります。
担当者からの進捗連絡が途絶える。問い合わせても「買手を精査中です」という曖昧な回答が続く。
なかなかプロセスが進まないと、条件を下げれば成約できると売主に圧力をかけてくる。
このような状態が数ヶ月〜1年以上続くケースがあります。
オーナーが契約解除を求めても、着手金は返金されません。
まさに「生殺し」の状態です。
この問題が生まれる業界構造的な背景
なぜこのような問題が生まれるのか。
その背景には、M&A仲介会社がM&Aの専門性よりも営業力を重視した採用・育成をしているという事実があります。
私が大手証券会社から中小企業M&A仲介会社に転職した際に強く感じたのは、M&Aアドバイザーへの教育が著しく不足しているという点でした。
証券会社では3年間の体系的な研修と数年に及ぶ先輩からのOJTが充実していましたが、M&A仲介会社では「案件を獲得してくること」が最優先とされ、M&Aの実務知識の習得は二の次になっていました。
営業力で案件を獲得することは得意でも、知識不足から獲得した案件を成約に導く実力が伴っていない担当者が多い。
これが「動かない仲介会社」を生む原因の一つであるように思えてなりません。
M&A仲介会社の問題点2|実在しない買手をちらつかせる「おとり営業」
かつて横行していた不動産業界と同じ手法
M&A仲介業界では、実在しない買手候補をちらつかせて「御社を指名で買いたいという会社がいます」と見せかける営業手法が横行していました。
昔の不動産業界におけるおとり広告と同じ手法です。
初回の営業電話や面談で「すでに御社に興味を持っている買手がいる」という話が出た場合、その買手の具体的な情報を確認してください。
業種・規模・なぜ御社に興味を持っているのかという根拠を詳しく聞いて、曖昧な回答しかできない場合はおとり営業の可能性が高いです。
確かに付き合いの長い買手からは、「このリストにある会社に打診をしてみてほしい」といわれることもありますが、その場合はこのような条件でリストを絞ったという明確な条件が提示されます。
怪しいと思ったときは、その担当者と買手との関係性、買手の誰(役職など)と会話をしているのかなどについて深堀りしてみるのもいいかと思います。
NDA締結をしなければ、社名は言えないのは仕方ないですが、「会話をしている買手担当者の名字だけでも教えてほしい」といえば、本当に相手先が具体的にいるのであればスムーズに名字程度は教えてくれると思います。
現在は中小企業庁の中小M&Aガイドラインにより明確に禁止されており、このような手法を使う業者は減ってきています。
しかし完全になくなったわけではありません。
「御社に興味がある企業がいる」と近寄ってくるM&Aアドバイザーとは注意深く接するようにしましょう。
M&A仲介会社の問題点3|メインバンクへの相談を「口止め」する
「銀行には絶対に言わないで」の裏にある仲介会社の事情
M&A仲介会社の中には、売主オーナーに対して「メインバンクにはM&Aのことを絶対に伝えないように」と口止めをするケースがあります。
場合によっては、成約まで銀行に秘密にすることを契約上の誓約として求めることもあります。
この口止めの裏にある仲介会社側の事情は明確です。
メインバンクへの相談がきっかけで、銀行経由で別の仲介会社が入ってくることを防ぎたい。
あるいは銀行からオーナーに対して「その条件では難しい」という現実的な意見が出ることで案件が停滞することを避けたい。
つまりオーナーの利益ではなく、仲介会社自身の利益のために口止めをしているのです。
経営者保証が残ったまま売却するリスク
売却に際して個人保証(経営者保証)を買手に引き継がせることが前提になる案件では、メインバンクへの事前相談は非常に重要です。
経営者保証の引き継ぎは、成約後に金融機関が買手の与信を審査して判断します。
仮にメインバンクが「この買手の与信では保証を引き継げない」と判断した場合、オーナーは会社を売却したにもかかわらず個人保証だけが残るという事態になりかねません。
メインバンクに事前相談すべき理由
事前にメインバンクに相談しておくことで、買手候補が経営者保証を引き継げる見込みがあるかを早い段階で確認できます。
もし引き継げないという判断が出た場合には、その時点で買手を変更するか、勇気ある撤退を選択することができます。
かつては銀行にM&Aの相談をすると融資を引き揚げられるリスクがありましたが、現在はM&Aに対する金融機関の見方も変わってきています。
特に地方銀行では県外企業への売却に対して慎重な姿勢を示すこともありますが、それでも事前相談なしに進めることのリスクの方が大きいです。
成約を急ぐアドバイザーほどメインバンクへの事前相談を嫌がる傾向があります。
「銀行には言わないで」と言われた場合は、その理由を必ず確認してください。
M&A仲介会社の問題点4|悪質な買手を排除しない
仲介会社に「買手を選ぶインセンティブ」はない
仲介会社の報酬は成約時に発生します。
そのため成約を優先するあまり、買手の質や誠実さを十分に確認しないまま案件を進める仲介会社が存在します。
買手の質を精査することは、仲介会社にとってむしろ成約の障害になりえます。
問題のある買手を排除すれば成約件数が減り、報酬も減ります。
この構造的なインセンティブの歪みが、悪質な買手を市場に残存させる原因のひとつです。
実際に起きた深刻なケース
あるオーナーが経験した事例です。
M&Aが成約した直後、買手が売手企業の現預金を「グループ内資金の一元管理」という名目で全額親会社に送金しました。
売手企業には1ヶ月分の運転資金しか残されておらず、その後の運転資金は都度親会社から送金される形でしたが、買手企業の資金繰りが悪化したことで送金がストップしました。
さらに深刻だったのは経営者保証の問題です。
契約上は成約後に買手が経営者保証を引き継ぐ約束でしたが、実際には引き継がれませんでした。
その結果、売却したにもかかわらず、売主オーナーは売手企業の資金繰り不足の責任を個人保証として負い続けることになりました。
悪質な買手を見極めるポイント
以下の特徴が見られる買手には注意が必要です。
- 売手企業の借入金の詳細について深く確認してこない買手(買収後に保証を引き継ぐつもりがなければ、借入金なんて関係ありません)
- 売手企業の現預金を活用して買収資金を賄おうとする買手(税効果を考えて、退職金を組み合わせることもありますが、買手の手出しが0となるようなスキームは危険信号)
- 短期間に複数の買収を繰り返している買手(買収した会社の資金を原資に次の買収を行う自転車操業状態になっている可能性があります)
誠実な仲介会社であれば、このような特徴を持つ買手を事前に排除するか、少なくともオーナーに詳しく情報提供します。
買手の財務状況や買収目的について十分な説明をしない仲介会社には注意してください。
M&A仲介会社の問題点5|契約書・株価算定の「テンプレート丸投げ」
M&Aの実務が属人化・形式化している
私が大手証券会社から中小企業M&A仲介会社に転職した際に最も驚いたのは、M&Aへの解像度が低い担当者があまりにも多い点でした。
具体的には以下のような実態があります。
- 株価算定はテンプレートのExcelに決算数値を入力すれば自動計算される仕組みを使っており、担当者が算定根拠を詳しく説明できない。
- 契約書は会社のひな形をそのまま顧客に送付しており、案件固有のリスクや条件が反映されていない。
- M&Aのストラクチャーとして株式譲渡以外(事業譲渡・会社分割など)を経験したことがない担当者が多く、案件に応じた最適なスキームを提案できない。
テンプレートやひな形を利用するのが悪いわけでは断じてありません。
問題は、テンプレートの内容やひな形の内容の本質を担当者が理解できていないまま活用していることです。
テンプレート依存がオーナーに与えるリスク
株価算定がテンプレートの自動計算に依存している場合、担当者は算定根拠をオーナーに説明できません。
オーナーが「なぜこの金額なのか」と聞いても、「中小企業の株価は一般的に純資産+営業利益●年分だからです」と、いう回答が返ってくるのはこのためです。
契約書がひな形の流用である場合、案件固有のリスクが契約条件に反映されないまま成約に至るケースがあります。
表明保証の範囲が適切でなかったり、経営者保証の引き継ぎ条件が努力義務として締結されたりという問題が発生します。
これらは成約後にトラブルとして表面化することが多く、その時点ではすでに手遅れになっているケースも少なくありません。
まとめ|M&A仲介会社の問題を見抜くためにできること
M&A仲介会社の問題点5つをまとめます。
- 着手金+専任契約による「生殺し」ビジネスモデル
- 実在しない買手をちらつかせるおとり営業
- メインバンクへの相談の口止め
- 悪質な買手を排除しない
- 契約書・株価算定のテンプレート丸投げ
最後に、この記事を読んでいるオーナーに最も伝えたいことをお伝えします。
M&Aの知識をゼロから学ぶことは簡単ではありません。
しかし長年会社を経営してきたオーナーであれば、M&Aの技術的な知識がなくても「人を見る目」は十分に備わっているはずです。
アドバイザーと話をしていて少しでも違和感を感じたら、すぐにセカンドオピニオンを求めてください。
一つの会社の意見だけを鵜呑みにせず、複数の専門家の意見を聞いたうえで最終的にご自身が納得できる判断をすることが最も重要です。
長年磨いてきたオーナーとしての直感と人を見る目を、M&Aアドバイザー選びにも活かしてください。
ツギテラスの業界の問題点に対するスタンス
ツギテラスでは業界の問題点を排除することを経営の根幹に置いています。
着手金なし・完全成功報酬型・代表社員が全案件に直接関与する体制はそのための仕組みです。
また悪質な買手のパターンを熟知しているからこそ、買手の事前調査と財務状況の確認を徹底しています。
違和感を覚えた案件を進めている方、セカンドオピニオンを求めている方も、お気軽にご相談ください。

