この記事では、大手証券会社と中小企業M&A仲介会社の両方を経験してきたからこそ見えてきた「M&A仲介会社の選び方」をお伝えします。
はじめに:中小企業M&Aは「大企業のM&A」とは別物である
最初に、多くのオーナーが誤解していることをお伝えします。
ニュースで目にする大型M&Aと、中小企業のM&Aはまったく別物です。
大企業のM&Aでは、証券会社や投資銀行の専門チームが案件に関与し、法務・財務・税務それぞれの専門家がチームを組んで動きます。
しかし中小企業のM&Aでは、担当者1名、多くても数名程度の体制で案件全体を担います。
つまり、担当者個人のスキルと誠実さが、案件の成否と条件のすべてを決めると言っても過言ではありません。
私が大手証券会社から中小企業M&A仲介会社に転職したとき、そのギャップに強い衝撃を受けました。
証券会社と比較して感じたことは以下の通りです。
- 未経験で入社したM&Aアドバイザーへの教育がまったく充実していない。
- M&Aの専門性よりも案件獲得のための営業力を重視している。
- 株価算定はテンプレートのExcelに数字を入力するだけで、担当者が根拠を説明できない。
- 契約書の内容をほとんど理解せず、会社のひな形をそのまま顧客に送付している。
- 株式譲渡以外のM&Aストラクチャーを経験したことがないアドバイザーが多く、スキームの柔軟な提案ができない。
証券会社の基準から見れば、M&Aのプロとは到底呼べないアドバイザーが、中小企業オーナーの大切な会社の売却を担当している現実がありました。
なお、余談ですが中小企業オーナーからは「証券会社ってM&Aをするの?」と驚かれることがありますが、証券会社には支店(リテール)部門とは別に、投資銀行(インベストバンキング)部門という部署があり、上場企業のM&Aについては基本的に大手証券会社(野村證券やゴールドマン・サックスなど)の投資銀行部門がアドバイザーになります。
※中小企業オーナーになじみ深いのは、株を売り歩く支店の証券会社営業マンなので、驚かれるのだと思います。
この記事ではM&A仲介業界の実態を踏まえたうえで、オーナーがM&A仲介会社を選ぶ際に確認すべき7つのポイントを解説します。
M&A仲介会社を選ぶ前に知っておくべき基礎知識
仲介とFAの違い
M&Aのアドバイザリーサービスには「仲介」と「FA(ファイナンシャル・アドバイザー)」の2種類があります。
M&Aアドバイザリーサービスには仲介しかないとして、この違いを理解していないオーナーが実は非常に多いです。
仲介は売手と買手の双方から報酬をもらい、両者の中立的な立場に立ちます。
売手・買手双方の意思決定者と直接やり取りできるため、案件の進行スピードが速くなりやすい点がメリットです。
FAは売手、買手双方にそれぞれ別のアドバイザーがつき、依頼したクライアント(売手または買手の一方)からのみ報酬をもらい、そのクライアントのために最良の条件を追求します。(FA同士での交渉がメインです)
ただし重要な注意点があります。
仲介契約を結んでいるにもかかわらず、買手の意向を優先して売手の条件を引き下げることに注力するアドバイザーが実際には存在します。
形式上は仲介でも、実態は「買手のFA」になっているケースです。
これは後述するアドバイザーの質の問題と深く関係しています。
両手取りと片手取り
仲介は売手・買手の双方から報酬を受け取る「両手取り」、FAは一方のみから受け取る「片手取り」です。
どちらが良い悪いという問題ではありませんが、仲介(両手取り)の場合は「成約させること自体が仲介会社の利益になる」という構造を理解しておく必要があります。
そのため、仲介でアドバイザーの依頼をする場合は、FAでのアドバイザー起用の際よりもさらに慎重にアドバイザーを選定することが求められます。
仲介という報酬体系の性質上、条件が悪くても成約させようとするインセンティブがアドバイザーに働く可能性があることを念頭に置いておきましょう。
M&A仲介会社の選び方1|着手金の有無と返金条件を必ず確認する
着手金はリスクを売主に転嫁する仕組みの可能性がある
M&A仲介会社の料金体系は大きく2種類あります。
着手金ありと着手金なし(完全成功報酬型)です。
着手金を取る仲介会社は「企業価値算定や初期調査の費用」と説明することが多いですが、注意が必要です。
着手金は成約しなくても仲介会社の収益になります。
つまり成約しなかった場合のリスクを売主に転嫁する仕組みとも言えます。
実際に起きたケース
あるオーナーから聞いた話です。
後継者不在をメインバンクに相談したところ、着手金ありの仲介会社を紹介されました。
面談には入社3年目の担当者が来て、前職はハウスメーカーの営業職とのことでした。
感じの良い青年で第一印象は悪くありませんでした。
株価算定の結果は5億円。
「弊社なら買いたい先を知っている」という上司の後押しもあって、オーナーはその金額が現実的だと確信しました。
着手金は100万円で、成約した場合は成功報酬から差し引かれるが成約しなくても返金されないという契約でした。
他のM&A会社2社にも相談したところ3億円前後の算定でしたが、オーナーは「業界大手だし、上司からの後押しもあったから大丈夫だろう」と5億円を提示した最初の会社と専任アドバイザリー契約を締結し100万円を支払いました。
しかし契約後は担当者からの進捗連絡がほとんどありません。
問い合わせても「買手の精査をしています」という回答だけ。
そのような状態が1年続きました。
専任契約のため他社への相談もできず、オーナーは生殺し状態に置かれました。
最終的に契約解除を申し出ると担当者はあっさり受け入れ、着手金100万円の返金を求めても契約上不可能との一点張り。
オーナーは100万円を泣き寝入りするしかありませんでした。
この事例には複数の問題が重なっています。
着手金あり・非現実的な株価算定・専任契約による他社相談禁止です。
確認すべきこと
着手金は成約した場合に成功報酬から差し引かれるか確認してください。
成約しなかった場合の返金条件も必ず書面で確認します。
専任契約か非専任契約かも重要で、専任の場合は契約期間中は他社への相談ができません。
なお、中小企業庁は「中小M&Aガイドライン」を公表し、仲介会社が守るべき行動指針を定めています。着手金や専任契約に関するルールも明記されています。
M&A仲介会社の選び方2|担当者の経歴と実務経験を徹底的に深掘りする
中小企業M&Aは会社の看板より担当者個人で選ぶ
繰り返しになりますが、中小企業のM&Aは担当者1名〜2,3名体制が基本です。
担当者のレベルが案件の成否に直結します。
大手の仲介会社であっても、自分の担当者が経験の浅い人物であれば意味がありません。
中小企業M&Aの世界では、仲介会社のネームバリューや規模はまったくあてになりません。
これが大企業M&Aとの最大の違いです。
また、M&A仲介で高い成果を上げるのは「M&Aの知識が深いアドバイザー」よりも「営業力が高いアドバイザー」であることが業界の実態です。
大手仲介会社がハウスメーカーや保険会社など異業種の営業職出身者を積極採用しているのはこのためです。
経験の浅い担当者が陥る「伝書鳩」パターン
私が大手M&A仲介会社に勤務していたとき、経験の浅い担当者が「伝書鳩」になっているケースをよく目にしました。
買手から言われたことをそのまま売手に伝え、売手から言われたこともそのまま買手に伝えるだけの存在です。
本来のM&Aアドバイザーの役割は、売手・買手双方の真の目的を把握したうえで情報ギャップを埋め、時には双方と衝突しながらも最善の交渉を導くことです。
しかし経験の浅い担当者は、M&Aに慣れた買手の意見を鵜呑みにして、M&Aに不慣れな売手をその条件に納得させることだけに注力してしまいます。
実際にこの「伝書鳩」状態によって深刻な損害を受けたケースを見てきました。
当初の予定価格の半額での成約を迫られたり、買手から指摘されることが明らかなリスク論点を事前に売主に伝えていなかったために、後から売主の価格条件を引き下げる交渉に持ち込まれたりと、売主側の条件だけが一方的に調整される場面が多くありました。
信頼できる担当者のサイン・ダメな担当者のサイン
ダメな担当者のサインとして以下が挙げられます。
- M&Aをオーナーの課題解決のための唯一の選択肢として押してくる。
- 「一般的にはこうなっています」と根拠やロジックを説明せず結論だけを押し付ける。
- 「うちは成約件数業界No.●です」と会社の実績ばかりを話す。
- 面談後にしつこく営業連絡をかけてくる。
信頼できる担当者のサインはこれとは逆です。
オーナーが真に抱えている課題をヒアリングで把握し、その課題解決のための選択肢をロジカルに説明できる人物です。
ソリューションを押し付けるのではなく、複数の選択肢を提示してオーナー自身に判断させるスタンスの担当者が、本物のアドバイザーです。
担当者を見極めるための質問
初回面談ではオーナー側からも積極的に担当者へ質問を投げかけてください。確認すべき内容は以下の通りです。
- M&A業界に入る前の職歴(前職が異業種の営業職のみの場合は慎重に)。
- 実際に担当・成約した件数だけでなく具体的な交渉内容(件数だけでは簡単に虚偽の回答ができます)。
- 売手・買手の意見が衝突した際にどのように解決したか。
- 今回の案件で想定されるリスクや難しい論点は何か。
最後の質問が特に重要です。
これに対してすぐに具体的な回答ができるアドバイザーは、実務経験が豊富な証拠です。
「案件によって異なります」という曖昧な回答しかできない場合は注意が必要です。
なお大手仲介会社のHPにはアドバイザーごとの経歴が掲載されていることも多いため、面談前に確認しておくことをおすすめします。
M&A仲介会社の選び方3|提示された企業価値算定の根拠を確認する
高い株価提示は受注のための営業行為の可能性がある
複数の仲介会社から企業価値算定を受けると、提示される金額に大きなばらつきが出ることがあります。
その背景には、未上場企業の株価算定に絶対的な正解がないという事実があります。
算定手法の選択や将来予測の前提次第で数字は大きく変わります。
そのため、契約を獲得するために意図的に高い数字を提示する仲介会社が存在します。
業界の実態として、株価算定はテンプレートのExcelに決算数値を入力すれば自動計算される仕組みを使っている会社も多く、担当者が算定根拠を詳しく説明できないケースも少なくありません。
確認すべきこと
どの算定手法を使ったか(DCF法・純資産法・類似業種比較法など)確認してください。
特に仲介会社の人間は上場会社のバリュエーションにおいてはスタンダードであるDCF法の考え方の説明が曖昧なケースが多いです。
DCF法について、「将来キャッシュフローを現在価値で割引いて~」ということくらいは話ができるケースが多いですが、算出過程を順序立てて話ができるアドバイザーは少ないように思えます。
ただ、算定方法のロジックはM&Aに慣れていない方には一度聞いても理解しにくい場合も多いです。
その場合は、ご自身が納得いくまで何度もアドバイザーに質問してください。
専門用語を多用して煙に巻こうとするアドバイザーには要注意です。
アドバイザー自身もその専門用語をしっかり理解できていない可能性が高いです。
私は顧客が理解できるようかみ砕いて説明ができるアドバイザーが真のプロフェッショナルの姿と考えています。
M&A仲介会社の選び方4|専任契約と非専任契約の違いを理解する
専任契約は動かない仲介会社に縛られるリスクがある
仲介の契約には専任(その仲介会社にしか依頼できない)と非専任(複数社に並行依頼できる)があります。
専任契約を求める仲介会社は「真剣に取り組む証」と説明することがありますが、裏を返せば競合他社の参入を防ぎ自社のペースで動ける環境を確保しているとも言えます。
先述のケースのように、専任契約によって他社への相談が1年間できなかったという事態が実際に起きています。
仲介会社が誠実に動いているかどうか確認できない段階での専任契約締結は、オーナーにとって大きなリスクです。
M&A仲介会社の選び方5|手数料の安さだけで選ばない
安い仲介会社に潜むリスク
手数料が安いこと自体は悪くありません。
しかし手数料の金額だけを判断基準にすると失敗する可能性が高まります。
問題のある仲介会社のパターンとして、買手とのマッチングだけを行いその後の交渉・契約は売手と買手に任せるケースがあります。
またM&Aを副業として手がける会社が、インターネットで入手できる定型契約書をそのまま使い案件固有のリスクに対応できないなんて笑えない光景を目にしたこともあります。
関与範囲を具体的に確認する方法
成約件数を聞くことは意味がありません。
それよりも仲介会社が関与するプロセスがどこからどこまでかを具体的に確認してください。
各プロセスでどのような支援をしてくれるか、今回の案件で発生しそうなリスクはどこにあるかも事前に質問しましょう。
これらの質問に対して曖昧な回答しかできない仲介会社は、実務対応能力に疑問があります。
M&A仲介会社の選び方6|秘密保持の徹底度を確認する
M&Aの検討を従業員・取引先に知られることは大きなリスクです。
情報が漏れると優秀な社員の離職や取引先との関係悪化につながります。
なお、昔は金融機関に知られることも融資の観点で不利とされておりましたが、現在は金融機関への事前相談による悪影響はほとんどないケースが多いです。
確認すべき点は、
- 買手候補への打診前に必ず秘密保持契約(NDA)を締結するか。
- 担当者以外の社内共有の範囲はどこまでか。
- ノンネームシート(社名・特定情報を伏せた資料)の内容が具体的になりすぎていないか。
などです。
組織の大きな仲介会社では社内でのデータ管理が複雑になることがあります。
担当者以外の人間にも情報閲覧権限が付与されている場合、担当者以外の人間からの情報流出リスクも高まります。
M&A仲介会社の選び方7|専任契約前に必ず複数社へ相談する
仲介会社は1社だけでなく複数社に相談することをおすすめします。
企業価値算定の金額を比較でき、担当者の質・相性も比べられ、料金体系・契約条件も比較できます。
ただし専任契約を締結した後は他社への相談ができなくなります。
複数社への相談は必ず専任契約前に実施してください。
まとめ|M&A仲介会社の選び方で後悔しないために
最後に、この記事を読んでいるオーナーに最も伝えたいことをお伝えします。
中小企業のM&Aは、ニュースで目にする大企業のM&Aとはまったく別の世界です。
大企業のM&Aでは、証券会社や投資銀行の高度な専門チームが関与します。
しかし中小企業のM&Aでは、担当者一人の知識・経験・誠実さがすべてを決めます。
仲介会社の名前や規模を信用しないでください。担当者を見てください。
確認すべき7つのポイントを改めてまとめます。
- 着手金の有無と返金条件
- 担当者の経歴と実務経験
- 企業価値算定の根拠
- 専任・非専任の契約条件
- 手数料とサービス内容のバランス
- 秘密保持の徹底度
- 複数社への相談(専任契約前に必ず実施)
M&Aは会社の売却という、オーナー人生において最も重要な決断のひとつです。
焦らず、納得できる担当者と仲介会社を見つけてから動き出してください。
ツギテラスのM&A仲介に対するスタンス
ツギテラスでは、代表社員が全案件に直接関与します。
野村證券の投資銀行部門で大型M&Aを経験し、中小企業M&Aの現場も熟知した立場から、担当者によるサービスのばらつきが生じない体制を維持しています。
ご相談内容によってはお断りさせていただく場合もあります。これはお受けする案件に責任を持って向き合うためです。
「自分の会社でも相談していいのか」という段階でも構いません。
まずはお気軽にご連絡ください。

