この記事では、ファンドへのM&A売却について、オーナーに知っておいてもらいたい基礎知識と、ファンドへ売却するときに検討すべきメリット・デメリットを解説しています。
「ファンドは悪!」という考えを持っている中小企業オーナーにこそ読んでもらいたい記事です。
この記事でわかること
- ファンドへの売却に対するよくある誤解と現実
- ファンドへ売却する4つのメリット
- ファンドへ売却する3つのデメリット・注意点
- ファンドの種類と特徴(比較表あり)
- ファンドへの売却に向いている会社・向いていない会社
はじめに|「ファンド=ハゲタカ」はもう古い
ファンドへのM&A売却を検討しているオーナーの多くが、
「従業員がリストラされる」
「会社をバラバラに切り売りされてしまう」
「大切にしてきたカルチャーをぶち壊される」
——ファンドへの売却にこのようなイメージを持っているオーナーは少なくありません。
このイメージの根源は、2007年に放映されたドラマ「ハゲタカ」にあると私は考えています。
放映当時はリーマンショックの影響で多くの企業が経営危機に陥り、企業再生ファンドが活躍した時期と重なりました。
連日、大企業が海外ファンドに買収、部門売却に加えて大規模リストラされたというニュースが流れ「ファンド=悪」というイメージが人々の中に根付いたのです。
しかし現実は大きく異なります。
リストラや切り売りを行うのは業績の悪い会社を買収して再建する「企業再生ファンド」であり、ファンドにはさまざまな種類があります。
業績のいい会社にはリストラをする理由がなく、そもそも企業再生ファンドを売却先に選ぶ必要もありません。
「ファンドは一律に悪」という感情的な判断ではなく、各ファンドの特徴をしっかりと把握することで、事業会社への売却以外の選択肢も検討できるようになります。
ファンドへのM&Aでの売却|4つのメリット
メリット① ロールアップ戦略による会社の成長
ファンドはロールアップという戦略を取ることが多いです。
投資先の一つの企業を核として、同業や関連業種の企業を複数買収し、規模をスケールアップさせていく戦略です。
共同購買によって調達コストの削減を図ると同時に、投資先相互の経営資源の共有による取引先の拡大、業界におけるプレゼンスの向上を実現できます。
単独では難しかった分野への新規参入も可能になるため、現在の延長線上にはない成長を実現できる可能性があります。
これらロールアップの資金はファンドが拠出するため、自社でお金を出すことなく成長の恩恵を受けられる点も魅力です。
メリット② 売却後も二度おいしい経済的メリット
ファンドは買収した会社の元オーナーや幹部社員が継続して残る場合、それら役員陣に対してストックオプションや株式の一部を割り当てるケースがあります。
買収後も会社の成長を共に実現してほしいという考えからです。
多くのファンドは最終的にエグジット(IPOや別のM&Aによる株式の売却)を行います。
役員陣がストックオプションを付与されていれば、ファンドの力を借りて企業がバリューアップした後、ファンドがエグジットする際に最初の売却時よりも高い価格で株を再度売却することができます。
つまり、ファンドに売却したときに一度お金が入り、ファンドがエグジットするときにさらにお金が入るという「二度おいしい」経済的メリットをオーナーが享受できる可能性があるのです。
メリット③ プロの経営ノウハウによる組織力の向上
ファンドに買収されることで、ファンドからプロ経営者が派遣されることが多いです。
透明性の高いガバナンス組織の構築、業務効率化のための仕組み導入、再現性の高いビジネスモデルの構築などにより、会社としての組織力をワンランク上げることができます。
メリット④ 子供や従業員への段階的な承継が可能
ファンドの中には、エグジット先を従業員や子供とすることを受け入れるものもあります。
例えばオーナーに子供はいるが年齢が離れており、子供が社会人になる前に引退したいというケースがあります。
この場合、一度ファンドに株を売却して経営もしてもらい、数年かけて会社をより成長させてもらった後、子供が社会人になったタイミングでファンドから子供に株を売却するという使い方ができます。
また従業員承継を望む場合にも、ファンドが10年単位で徐々に従業員に株を渡していくという方針を持つファンドも存在します。
従業員に過度な買収資金負担を強いることなく、時間をかけて株を移行できる点が魅力です。
ファンドへのM&Aでの売却|3つのデメリット・注意点
デメリット① 事業会社よりも売却価格がつきにくいことがある
多くのファンドは投資家から資金調達しており、決められた投資期間内にエグジットしなければならない制約があります。
PEファンドの投資期間は一般的に3〜7年程度であり、その期間内に収益を上げる必要があるため、長期の事業計画ベースで高い価格をつけることが構造的に難しいのです。
ただし、投資期限のない永久保有方針のファンドも存在します。
事業会社と同程度の金額での売却を希望する場合は、さまざまな種類のファンドの話を聞いてみることをおすすめします。
デメリット② 事業シナジーが見込みにくい
ファンドは経営のプロ集団ですが、自社単体で特定の事業を営んでいるわけではありません。
そのため、M&Aにシナジーを求める売り手にとっては、買収後のシナジーをイメージしにくいという現実があります。
ただし、すでに事業会社をロールアップ戦略で買収しているファンドに売却する場合は、既存の投資先とのシナジーが具体的に把握できるケースが多いです。
ファンドへ売却を検討する際は、ロールアップ戦略の有無と既存投資先(ポートフォリオ)を確認しておくことをおすすめします。ポートフォリオはファンドのHPで公開されていることも多いです。
デメリット③ 投資期限による短期的な利益追求の可能性
投資期限のあるファンドは、その期限内に収益を最大化することがミッションです。
そのため、投資期限以上のスパンで事業を実施するインセンティブが生まれにくく、長期的な視点での事業計画が地に足のつかないものになる可能性があります。
長期的に伴走しながら自社の課題を一緒に解決してほしいと考えるオーナーにとっては、多くのファンドは適切な売却先ではないかもしれません。
ファンドの種類と特徴|比較表で理解する
一口にファンドといっても種類は様々です。
まずPEファンド(プライベート・エクイティ・ファンド)は未上場企業の株式に投資するファンドの総称であり、その中にいくつかの種類が存在します。
PEファンドの内訳
PEファンドは以下が代表的です。
バイアウトファンド
バイアウトファンドは成熟した企業の株式を過半数以上取得して経営権を握り、経営に積極的に関与して企業価値を高めた後にエグジットするファンドです。
中小企業M&Aにおいて最も多く登場するタイプです。
グロースキャピタルファンド
グロースキャピタルファンドは成長途上の企業に対してマイノリティ出資(過半数未満の株式取得)を行い、成長を支援するファンドです。
経営権を取得しない点がバイアウトファンドと異なります。
事業再生ファンド
事業再生ファンドは業績の悪化した企業を買収し、リストラや事業再編を通じて再建するファンドです。
いわゆる「ハゲタカ」のイメージはこのタイプに近いですが、業績の悪い会社を対象にしており業績が良い会社には基本的に関係ありません。
PEファンド以外のファンドの種類
ベンチャーキャピタル(VC)
ベンチャーキャピタル(VC)はスタートアップや成長初期の企業に投資するファンドです。
将来のIPOを見据えた投資であり、中小企業オーナーの事業承継型M&Aではあまり関係のない種類です。
MBOファンド
MBOファンドは経営陣による自社買収(MBO)を支援するために経営陣に出資するファンドです。
経営陣が自己資金だけでは買収資金を用意できない場合に活用されます。
MBO後に企業価値が高まった後、再上場や他の投資家への株式売却によりエグジットします。
サーチファンド
サーチファンドは経営者を目指す30代前後の個人(サーチャー)が投資家から資金を集め、自分が社長となって承継する中小企業を探して買収するファンドです。
通常5〜7年かけて企業価値向上に取り組み、上場・MBO・第三者売却等のエグジットを迎えます。
通常のファンドと異なり、後継者の顔が見えるという点がオーナーにとって安心感につながります。
日本では2020年前後から注目が高まっています。
ファンドの種類比較表
| ファンド種類 | 投資方針 | 買収対象 | 投資期間 | エグジット方針 |
|---|---|---|---|---|
| バイアウトファンド | 成熟企業の経営権取得・価値向上 | 中小〜上場企業 (売上10億円以上が多い) | 3〜7年 | IPO・事業会社・他ファンドへ売却 |
| グロースキャピタルファンド | 成長企業へのマイノリティ出資 | 成長段階の中堅企業 | 3〜7年 | IPO・株式売却 |
| 事業再生ファンド | 業績悪化企業の再建 | 業績不振の企業 | 3〜7年 | 再建後に売却 |
| ベンチャーキャピタル | スタートアップへの成長資金提供 | ベンチャー・スタートアップ | – | IPO中心 |
| MBOファンド | 経営陣の自社買収支援 | 中堅〜上場企業 | – | 再上場・他ファンドへ売却 |
| サーチファンド | 個人サーチャーによる事業承継 | 中小企業 (売上数億〜数十億円) | 5〜7年 | IPO・MBO・第三者売却 |
(参考:中小企業庁 PEファンド等による投資に関する実態調査)
ファンドへのM&A売却が向いている会社・向いていない会社
向いている会社
業種によっては特定の系列色がつくことを避けたい売り手にとって、ファンドは有力な選択肢となります。
例えば取引先のメインが○○系列の会社の場合、○○系列のライバル企業の傘下に入ることができないというケースがあります。
このとき特定の企業色がついていないファンドへの売却は現実的な選択肢になります。
また売却後も引退ではなく経営を継続したいと考えているオーナーにとってもファンドは向いています。
残る経営者にストックオプションや成果報酬などのインセンティブを用意することが多いのがファンドの特徴であり、自走できる会社・経営者と一緒に成長したいという買い手としてのニーズともマッチしやすいからです。
向いていない会社
高い価格での売却を最優先に考えているオーナーには、ファンドは向いていない可能性があります。
すでに「デメリット① 事業会社よりも売却価格がつきにくいことがある」で記載の通り、構造上、事業会社よりも高い価格がつきにくいからです。
また永続的にどこかの傘下に入り続けたい(エグジットをしてほしくない)というオーナーにも多くのファンドは向いていません。
例外的にエグジットしない方針のファンドも存在しますが、多くのファンドはエグジットを前提にしています。
ただし事業会社への売却でも、方針転換で買収した会社をさらに売却することはあり得るため、この点は一概にファンドだけのリスクとは言えません。
まとめ|ファンドへM&A売却を検討するときに知っておくべきこと
ファンドと一言でいっても実に様々な種類があります。従業員承継に特化したファンド、エグジットをしない方針のファンド、特定の業種に特化したファンド、サーチファンドのように後継者の顔が見えるファンドなど、その特徴は大きく異なります。
ファンドへのM&A売却を検討する際は「ファンドはどこも一緒」と考えるのではなく、それぞれの特徴を把握したうえで検討することが重要です。
事業会社への売却とファンドへの売却を比較したい場合は、まず複数の選択肢を並べたうえで自社の状況に合った選択を検討することが重要になります。
また、時にはM&A仲介会社に相談して情報収集することも一つの手です。
信頼できるM&A仲介会社の選び方については以下の記事も参考にしてください。
よくある質問|ファンドへのM&Aでの売却
ファンドへのM&A売却と事業会社への売却はどちらがいいですか?
どちらが良いかは会社の状況と売り手の希望次第です。
高い売却価格を最優先にするなら事業会社、売却後も経営を続けたい・特定企業の色がつくのを避けたいならファンドが向いている可能性があります。
中小企業でもファンドへのM&Aで売却はできますか?
できます。
以前は「利益(EBITDA)が最低数億円はないとファンドの投資対象にならない」と言われていましたが、中小規模のファンドが増えたことで、EBITDA3,000万円以上などの中小オーナー企業にも投資するファンドが増えています。
ファンドにM&Aで売却した後、会社はどうなりますか?
ファンドの種類や方針によって異なります。
多くの場合、ファンドからプロ経営者が派遣され、企業価値向上のための施策が実施されます。
その後3〜7年程度でIPOや別会社への売却(エグジット)が行われます。
ファンドにM&Aで売却した後もオーナーは会社に残れますか?
残ることができます。
むしろファンドは元オーナーが経営を継続することを歓迎するケースが多く、ストックオプションや成果報酬などのインセンティブが用意されることもあります。

