後継者がいない会社はどうする?事業承継3つの選択肢を比較

事業承継3つの選択肢を解説するイメージ

この記事では、実際の中小企業事業承継の現場で多く質問をいただく「後継者がいない会社の事業承継の選択肢の比較方法」についてお伝えします。

目次

はじめに|後継者がいない会社の事業承継は他人事ではない

帝国データバンクの調査によると、2025年の全国後継者不在率は50.1%と、依然として2社に1社が後継者未定の状態です。
後継者がいないまま廃業に至る「後継者難倒産」は2024年度に507件発生し、過去2番目の高水準となっています。
黒字経営であっても後継者不在が原因で廃業に追い込まれる企業が後を絶たない現実があります。

(参考:帝国データバンク 全国「後継者不在率」動向調査2025年

後継者がいないことに漠然とした不安を感じながらも、事業承継に対する具体的な行動を起こせないオーナーは非常に多いです。

しかし立ち止まっていても不安は増大することはあっても解決することはありません。
まずは事業承継の選択肢を整理することで、頭の中が整理されていくと思っています。

本記事では、事業承継の3つの選択肢(親族内承継・従業員承継・第三者承継)を実際の事例を交えながら徹底比較します。
M&A業界に10年以上携わり、数多くの後継者がいない会社の事業承継案件に関与してきた立場から、オーナーが知っておくべき現実をお伝えしていきます。

事業承継の3つの選択肢とは

事業承継には大きく3つの方法があります。

① 親族内承継

子供・兄弟・甥・姪など親族に会社を引き継ぐ方法です。オーナーにとって感情的に最も望ましい選択肢であり、従業員や取引先からの理解も得やすい傾向があります。

ただし親族の中に「引き継ぐ意思と能力のある人材」がいることが前提です。

② 従業員承継(MBO)

長年会社を支えてきた役員や従業員に会社を引き継ぐ方法です。
会社の事情をよく知る人物への承継のため、業務の継続性が高い点がメリットです。

しかし承継には株式の買取資金が必要であり、その資金調達が大きな壁になることがあります。

あまりにも低い金額で従業員に株を譲ると贈与とみなされ、多額の贈与税負担が発生することもあるのでその点にも注意が必要です。

③ 第三者承継(M&A)

親族・従業員以外の第三者(他の会社や投資家)に会社を売却する方法です。
オーナーは売却益を受け取りながら引退することができます。

多くのオーナーが「M&Aは最後の手段」と思い込んでいますが、実際には3つの選択肢の中で引継ぎ先の目が最も厳しくなるのがM&Aです。

重要な視点|引き継ぐ側からの見え方は正反対

ここで多くのオーナーが見落としている重要な視点をお伝えします。

オーナーにとっての感情的な優先順位は「親族内承継→従業員承継→M&A」の順です。
しかし引き継ぐ側から見た場合の評価の厳しさは、この順番とまったく逆になります。

つまり第三者(M&A)が最も客観的に会社を評価し、従業員がその次、親族が最も感情的に判断します。

これは引き継ぐ側の意思決定に感情が関与する度合いが変わるためです。
親族は感情で「継ぐ」と決めることができますが、その分、会社の問題点を見て見ぬふりをして引き継いでしまうリスクがあります。
一方でM&Aの買手は感情ではなく財務・事業の実態で判断するため、条件が悪ければ容赦なく撤退します。

オーナーにとっての最後の手段であるM&Aが、引き継ぐ側から見ると最も客観的な評価になるという逆説を理解しておくことが重要です。

親族内承継の現実|うまくいくケースといかないケース

うまくいったケース|水産養殖会社の奇跡の復活

業歴50年を超える県下最大規模の水産養殖会社の話です。

2代目社長には娘しかおらず、娘たちは嫁入りしてしまったため、「うちは後継者がいない」と親族内の事業承継は早々に諦めていました。
単価の上がりにくい業界構造、餌代や光熱費の高騰、疫病による稚魚の大量死が重なり、年間生産量はピーク時の3分の1に減少。
廃業も視野に入れ始めた頃、社長の孫が「会社を継ぐ」と名乗り出ました。

孫が事業承継を決めたのは、大好きな祖父の会社を復活させたいという一心でした。
孫は飼料の仕入れ商社での営業経験を活かしながら、企業再生を得意とするコンサル会社へ転職して実力をつけ、満を持して家業に入りました。

中小企業という規模の制約に最初は苦労しながらも、持ち前の行動力でトップ営業による販路拡大、養殖のDX化、新品種の養殖とスポンサー集めを次々と実現。
新規事業がビジネスコンテストで表彰されるまでになり、グループ全体の黒字化に成功しました。

この事例から学べる教訓は、承継する側の「覚悟と準備」が成否を決めるという点です。
孫は業界経験がほとんどない状態でも会社の課題を認識し、一つ一つ壁をクリアしていきました。

孫は感情だけで飛び込まず、コンサルとして実力をつけてから家業に入り、見事に家業の未来をつないだとても印象深い事例です。

うまくいかなかったケース|造園会社の兄弟対立

業歴40年を超える老舗造園会社の話です。

先代社長(2代目)が急死したことで急遽3代目を決めることになりました。
男兄弟3人のうち、母の一言で長男が3代目社長に就任。
株式は社長と次男(専務)が半々で相続しました。

しかしここから問題が始まります。

ずっと会社で働いてきた次男は、長男というだけで社長になった3代目を快く思わず、経営方針を巡って対立が続きました。
経営陣がまとまりを欠く中でコロナが直撃し業績が急悪化。
兄二人の険悪な雰囲気に嫌気が差した三男も家業を離れました。

会社を第三者に譲ることを決意した長男に対し、株の半分を持つ次男が真っ向から反対。
折り合いがつかないまま時間だけが過ぎ、会社は取り返しのつかない状態になってしまいました。

先代は「兄弟は仲良く助け合うように」と言い残しましたが、残念ながらその願いは叶いませんでした。

この事例から学べる教訓は2つです。

後継者がいても株式の分散が事業承継の意思決定を阻害するリスクがあること、そして親族内承継は感情が複雑に絡み合うため、事前の合意形成と株式整理が不可欠だということです。

従業員承継(MBO)の現実|資金調達という大きな壁

実際に起きたケース|製造会社の右腕社員が断った理由

特許技術を持つ技術者集団の製造会社の話です。

受託開発で堅実な経営をしていた会社でしたが、社長の「自社製品で世の中に貢献したい」という熱意のもと、数億円の銀行借入をして自社製品の開発に挑みました。

苦労の末に製品開発に成功したものの、大手企業が同様の製品を一足先にリリースしてしまったことで売上が立たず、多額の借金だけが残る結果になりました。

70歳になった社長は、長年の右腕社員に会社を継いでほしいと打診しました。
以前「喜んで継がせてもらいます」と言っていた右腕社員の反応は一変。
「数億円の借金を抱えた今の状態では不安がある」と、社員承継に難色を示しました。

次に社長は税理士に自社株の評価を依頼したところ、算定額は3億円。
銀行に融資を相談したところ「足元の業績を鑑みると3億円の融資は難しい」という回答でした。

結果として、社長は長年思い描いていた右腕社員への承継を断念せざるを得ませんでした。

従業員承継で知っておくべき資金調達の現実

銀行が融資を判断する際に最も重視するのはキャッシュフローです。
会社に担保設定できる資産があっても、キャッシュフローが悪ければ融資額は大幅に絞られます。

MBOの場合、金融機関は会社のキャッシュフローを返済原資として見るため、この観点がより厳しく問われます。
従業員承継を検討している場合は、会社の財務状態が良好なうちに動き出すことが不可欠です。

第三者承継(M&A)の現実|後継者がいない事業承継の最終手段ではない

M&Aは「会社を売り飛ばすこと」ではない

多くのオーナーがM&Aに対して持っているイメージは「会社を売り飛ばす」「従業員がリストラされる」というものです。
しかし現実は異なります。

中小企業のM&Aでは、従業員の雇用継続・事業の存続・取引先との関係維持を条件として成約するケースが大半です。
親族や従業員には継げなかった会社を、情熱を持った第三者に引き継いでもらうことで、会社が次のステージに進めるケースも数多くあります。

M&Aを検討すべきタイミング

M&Aを最後の手段と考えているオーナーほど、相談に来るタイミングが遅すぎる傾向があります。

実際にご相談に来られる方の多くは、体調を崩されたときや業績が大幅に悪化したときです。

しかしその段階では取れる選択肢が著しく狭くなっています。
年齢や財務状況は客観的な指標であり、交渉相手に「売却を焦っている」「有利な条件で買収できそうだ」と付け入る隙を与えることになります。

理想的には、事業承継を実行したいタイミングの3年前から情報収集と準備を始めることをおすすめします。

M&Aを検討する際は、仲介会社選びが成否を左右します。
詳しくは以下の記事もご参照ください。

M&A仲介会社の選び方|7つのポイントで徹底比較

M&A仲介会社の問題点5選|元アドバイザーが業界の実態を告発する

3つの選択肢の経済的なメリット・デメリット比較

事業承継の方法を選ぶ際、感情的な優先順位だけでなく経済的な観点からも比較することが重要です。

① 親族内承継の経済的なポイント

親族内承継の最大の経済的メリットは「事業承継税制」の活用です。

事業承継税制(特例措置)を活用すると、後継者が取得した自社株式にかかる贈与税・相続税の100%が猶予され、一定の要件を満たすことで免除されます。
つまり要件を満たし続ければ、株式承継にかかる税負担を実質ゼロにできる制度です。

ただし注意点があります。
特例措置の適用に必要な特例承継計画の提出期限は2026年3月末です。
制度を利用予定の方は期限に間に合うように早めに準備を進める必要があります。

また、事業承継税制の適用後に株式譲渡(M&A)を行うと適用が取り消しになり、猶予されていた贈与税・相続税に加えて利子を支払わなければいけません。
つまり事業承継税制を使った後でM&Aに切り替えることは、経済的に大きなデメリットになります。

税制的にはメリットが大きい親族内承継ですが、後継者候補の能力・意欲・資金力が前提条件となります。

② 従業員承継(MBO)の経済的なポイント

従業員承継の最大の経済的障壁は株式の買取資金です。

例えば会社の株価が3億円と算定された場合、後継者候補の従業員はその資金を調達する必要があります。
銀行からの融資が現実的な手段ですが、銀行が融資を判断する際に最も重視するのは会社のキャッシュフローです。
キャッシュフローが悪ければ融資額は大幅に絞られます。

先述の製造会社の事例でも、足元の業績悪化によって銀行から3億円の融資を断られ、社員承継が頓挫しました。
従業員承継を検討する場合は、会社の財務状態が良好なうちに動き出すことが不可欠です。

オーナーにとっての経済的メリットとしては、親しい社員に会社を引き継いでもらえる一方、売却金額は第三者承継(M&A)と比べると低くならずを得ないケースが多い点も理解しておく必要があります。

③ 第三者承継(後継者がいない事業承継)の経済的なポイント

M&Aによる株式譲渡では、オーナーは売却益を一括で受け取ることができます。

個人株主が株式譲渡を行う際の税率は分離課税で一律20.315%(所得税15.315%・住民税5%)です。
累進課税ではないため、売却益が大きくなっても税率は変わりません。

ただし2025年以降、高額の譲渡益に対する課税が強化されています。
年間の合計所得が3.3億円を超える高所得者を対象に、譲渡所得の税率が最大27.5%に引き上げられる「ミニマムタックス」が2025年から導入されました。
譲渡益が3.3億円を超えるような案件では注意が必要です。

また節税策として、M&Aに伴いオーナー経営者が退職する場合、株式譲渡の対価の一部を役員退職金として受け取ることで税負担を軽減できる場合があります。
退職所得は退職所得控除と1/2計算が適用されるため税務上優遇されています。

活用方法は弊社でも提案をしておりますが、最終的な税金計算については必ず税理士への相談をおすすめします。

3つの選択肢の比較まとめ

スクロールできます
親族内承継従業員承継(MBO)第三者承継(M&A)
引継ぎ難易度
(意欲次第)

(意欲はあるが資金が課題)

(客観評価で厳しめ)
オーナーの収入なし売却益売却益
(最も高くなりやすい)
後継者の資金負担贈与税・相続税
(事業承継税制で猶予・免除可)
株式買取資金
(要銀行融資)
なし
(買手が支払い)
オーナーの税負担なし20.315%
(分離課税税)
20.315%
(分離課税税)
準備期間の目安長期間長期間3年前推奨
主なリスク(全般)後継者の能力
株式分散
業績悪化アドバイザー選定
買手の質
主なリスク(経済面)事業承継税制の要件維持資金調達ミニマムタックス
(参考:中小企業庁 法人版事業承継税制

まとめ|後継者がいない会社の事業承継で後悔しないために

事業承継の3つの選択肢を比較してきました。
どの方法が最善かはオーナーの状況によって異なります。
大切なのは「どれが感情的に受け入れやすいか」ではなく「自社の状況に最も合った方法はどれか」をフラットに判断することです。

後継者がいないことに気づいたら、まずは情報収集から始めてください。
各承継手法の整理をすることで、ご自身の頭の整理ができるようになります。
その整理をした後、ご自分の気持ちと向き合い、じっくり選択肢を吟味すればいいのです。

まずは言葉にできない不安を言語化することから始めましょう。

なお事業承継とM&Aの関係について詳しくは、中小企業庁が公表している「中小M&Aガイドライン」も参考にしてください。

(参考:中小企業庁 中小M&Aガイドライン

よくある質問

後継者がいない場合、廃業しかないのですか?

廃業以外にも選択肢はあります。親族内承継・従業員承継・M&Aの3つの方法があり、後継者がいなくてもM&Aという選択肢で会社を存続させることができます。大切なのは早めに情報収集を始めることです。

事業承継はいつから準備すべきですか?

理想的には事業承継を実行したいタイミングの3年前から準備を始めることをおすすめします。年齢や業績が交渉の弱点になる前に動き出すことで、選択肢が大きく広がります。

M&Aと事業承継は何が違いますか?

M&Aは事業承継の手段の一つです。事業承継には親族内承継・従業員承継・第三者承継(M&A)の3つの方法があり、M&Aは第三者承継に該当します。

親族外の従業員への承継でも事業承継税制は使えますか?

使える場合があります。法人版事業承継税制の特例措置では、親族外を含む複数の株主から後継者への承継も対象となっています。ただし要件が複雑なため、税理士への相談をおすすめします。

参考:中小企業庁 法人版事業承継税制

後継者候補はいるが継ぐかどうか未定の場合はどうすればいいですか?

まず情報収集を始めることをおすすめします。後継者候補が最終的に継がないと判断した場合でも、早めに動き出していれば他の選択肢(従業員承継・M&A)を取る時間的余裕が生まれます。

ツギテラスが大切にしていること

ツギテラスでは、M&Aを最初から唯一の選択肢として提案することはありません。オーナーが今どの立場に置かれており、どのような選択肢があるのかを整理することから始めます。

親族内承継・従業員承継・M&Aを横断的に比較検討した結果、納得してM&Aを選択していただくことが最も重要だと考えているからです。

「まだM&Aを決めたわけではないが、選択肢を整理したい」という段階でも構いません。お気軽にご相談ください。

この記事を書いた人

野村證券投資銀行部門でパナソニック・日本ペイント等の大型M&Aアドバイザー、ファイナンスアドバイザーを経験後、M&Aベンチャー(現・上場企業)にジョインし中小企業M&A仲介に従事。同社上場後、個人事業主として独立。合同会社ツギテラスを設立。行政書士登録済み。M&A業界歴10年以上。代表社員が全案件に直接関与する完全成功報酬型のM&Aアドバイザリーを提供。

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